私はこう考える

病気の症状やその診断基準については、今やネット上に溢れています。そこで、ここでは実際に私がどのように考え、どのように治療にあたっているのか、その実際をご紹介していきたいと思います。もちろん誤った内容をお伝えすることはあり得ませんが、あくまでも「私はこう考える」という視点でのお話になりますので、「ホンマでっか?」というような軽いお気持ちでご一読、ご参考にしていただければ幸いです。

column 1 結局頑張ればいいの?頑張らない方がいいの?

症状の程度、時期によると思います。例えば、運動で身体を鍛える時、故障をしていなければ多少きつくても頑張った方が結果として筋肉や骨が強くなります。しかし、いざ故障をしてしまったら、骨折してしまったらどうでしょうか?
まず頑張ることは出来ないでしょうし、万が一頑張れたとしても故障の悪化につながってしまうでしょう。私は患者さんの背中を押して頑張っていただいた方がいのか、休んでいただいた方がいいのか、その基準として上記のように骨折、故障をしてしまっていないかという視点を大切にしています。

column 2 じゃぁ、休んでる時、どう過ごすべきですか?

非常に良く聞かれる質問です。いざ休職をしていただいた時、真面目な皆様は休みさえも「頑張ろう」としてしまうのです。でも考えてみてください。骨折をして休んでるんです。骨がくっつくまでは病院のベッドで脚をぶら下げて寝ていると思ってください。そして骨がくっついたら、少しずつ動けるままに動いてみましょう。少し外に出て散歩をしたいと思ったら出てみる。友人と話してみたいと思ったら話してみる。まだスクワットも踏み台昇降もする必要はありません。自己啓発本を読む必要もありません。そうして少しずつ筋力を戻しながら、また歩けるように、そして走れるようにしていきましょう

column 3 薬とはどう向き合えばいいの?

疾患にもよると思いますが、例えば「うつ」の場合。病気の状態は言わば河川が氾濫した状態だと思っています。嵐や台風等のストレスで一気に氾濫したケースもあれば、6月の長雨で少しずつ水位が高くなったケースもあるでしょう。もともとの川の特徴(病前性格)として、曲がりくねっていて氾濫しやすいものもあれば、流れが緩やかなところに運悪く大災害に見舞われたケースもあるでしょう。氾濫しやすくてもダム(家族や友人の支え)により、未然に防がれていることもあるかもしれません。 こういった状況のなか、薬とは堤防の様な役割だと思っています。まずは、可能であれば上流からのストレスを最小化する(環境調整)。そのうえで堤防を設置して川の流れを整えていきます。間もなく川の流れは緩やかになるでしょう。でも、すぐに取り壊してはいけません。一度氾濫した箇所はまだ脆弱です。周りに草木が生い茂り、地盤が固まるのを待ちましょう(病識の獲得、自己肯定感の回復、認知の修正等)。そしてある程度大丈夫かな?と思ったらそっと少しずつ堤防の高さを下げていけばいいのです。すると川は自らの流れで再び穏やかに、力強く流れていくはずです。

column 4 なぜ心療内科は予約がとりづらいのですか?

心療内科は他の診療科と異なり、他職種による多くの検査、処置があるわけではなく、ほとんどが先生と患者さん一対一の世界です。看護師さん、検査技師さんと上手く連携をとりながら、複数の患者さんを同時に診ていく救急の先生は実に見事ですね。しかし、心療内科の場合はそうはいきません。言わば1組限定の飲食店のようなものです。
初めてご予約をいただいた際は必ず一定の時間の枠を確保しております。ダブルブッキングなんてもってのほかです。初診ほど時間は取れませんが、再診の方にももちろん一定の時間確保が必要です。お一人で1日70人の患者さんを診察している先生もいらっしゃると聞きます。計算してみてください。新たな枠の確保が当然難しくなるわけですね。
残念ながら当院でも、新患のご予約をいただきながら、連絡なく来院されないケースが週に数件は必ずあります。その数時間は私もスタッフもただただ待ちぼうけの状態です。時間が取れずご予約をお断りした患者さんに対しては大変申し訳ない気持ちになります。中には、対策として「予約料」を設定しているクリニックもあるようです。
時間のある限り、精一杯診察治療にあたることをお約束します。新たにご予約をしていだく際は、少しでもこのような心療内科の実際をご理解いただきながら、「ご予約10分前の来院」そして、どうしても来院できない場合は早めのご連絡をいただければ幸いです。

column 5 行動認知療法??

佐藤泰志さん原作の「草の響き」をご存知ですか? 今年秋に東出昌大さん主演で映画化もされるそうです。簡単に言えば、うつ病を患った主人公が、医師の指示のもと、服薬とともに、毎日街を走ることを日課とし、少しずつ病気を克服していくというお話です。
「認知行動療法」という言葉を皆様も聞いたことがあると思います。とても大切な考え方ですし、日々の治療の中でその考え方を少しでも取り入れることを心がけてはいます。しかし、系統立てて認知行動療法を日々実践することは、思考や理解力、工夫、柔軟性を要し、なかなか続かないのが実情です。頭の中で浮かんだ自動思考に気づき、振り返り、より柔軟な思考を考え…なかなか日常の忙しい中では難しいですよね。
そこで、私が良く外来でお伝えしているのが行動認知療法のすすめです。そもそも気分、思考、行動はお互いが絶妙に関係し合っていると言えます。柔軟に思考したり、認知を修正したり、なかなかうまくいなかい方は、それこそ草の響きの主人公のように、ただシンプルで何も考えずにできる行動からはじめてみてください。認知が変わることで行動が変わるのと同様に、行動を変えることで認知、思考を変えることもできると思います。よく立場が人を作る、変えるとも言いますよね。
私も毎朝「だるい、眠い、きつい」と思いながらも、ネガティブな思考に支配される前に何も考えずに着替えて靴を履いて、外に出て歩き始めます。すると少しずつ「今日も頑張ろうかな…」という気持ちになれるように思います。
是非、お試しください。

column 6 根本的に治ること。それは行動が変わること。

治療やお薬が合うとこちらも驚くくらいに多くの方の症状が改善してきます。しかし「これはお薬が効いてるだけで根本的には治ってないのではと不安です」とよくご相談を受けることがあります。
では、根本的に治るとはどういうことなのか。いくつか指標はあると思いますが、私が大切にしているのは「行動が変わること」です。うつ状態にあり、ネガティブな思考にとらわれている時は「B」という回避的な行動を取り続けてしまいます。するとその行動に沿った思考や気分が自身に根付いてしまうわけですね。
しかし、服薬や治療により、状態が上向き、今までとることのなかった「A」という積極的な行動をとれたとしたら。。それに伴いポジティブな思考や気分がついてきて、お互いが強化され次も「A」という行動がとれるようになる。次第に今までのネガティブな自分に置き換わることで「根本的に」に自身が変わると言えるのではないでしょうか。

column 7 不安に対処し過ぎること。

不安に対処をし過ぎてしまうこと。それは痒いところを掻いてしまうことに似てるように思います。痒くて仕方ないのでボリボリと掻く→その時は楽になって、目の前の事に集中できる→しかし、掻いてしまったためにますます肌荒れして痒くなりさらに掻かずにはおれなくなる。
不安でも同様の悪循環な陥ってしまうことはありませんか?必要なお薬を塗る、アレルギーがあれば対処する。日焼けし過ぎないようにする。可能な範囲での的確な対処はしつつも、ただむやみに掻きむしるのを控えることも大切です。

column 8 カウンセリングのタイミングについて

当院にも非常に優秀な心理士の先生が来てくれています。ただ、カウンセリングを薬物療法に代わる、何か特別なものとして、万能感をもって見るのは正しくないように思います。ポイントポイントで薬物療法と共に、上手に利用することで、カウンセリングの効果が最も発揮されるのではないでしょうか。では、どのようなタイミングでカウンセリングを利用するのがいいのでしょう?もちろん、疾患や悩みの種類によっても違うとは思います。通院初期にただ誰かに話を聞いてほしい、吐き出したい、ということもあるでしょう。 しかし、私が1番カウンセリングが効果を発揮するのは「ある程度症状が改善した後」だと思います。あるストレスAに対して、自分自身がうつ状態にあると、その負の側面しか見ることができません。その時にいわゆる「認知の修正」と称して、「こういう考え方もあるのでは」「違う捉え方ができるのでは」と提案されても「でも」「だって」「しかし」とそれを素直に受け入れることができません。時には「あの先生、カウンセラーさんは理解してくれない」と治療関係が崩れる原因となりかねません。しかし、ある程度薬物療法が効いてきて、自分自身の状態が持ち上がってくると、ストレスAに対して違う見方ができるようになってきます(平地から観る景色と高い所から観る景色が違うように)。するとカウンセラーやドクターの助言や指摘を素直に受け入れられるようになり、「認知の修正」がスムーズに定着してくるのです。
いかがでしょうか。是非参考にしていただき、治療と組み合わせてポイントポイントで上手にカウンセリングを利用されて下さい。

column 9 思考は獣道

良く思考の癖と言いますが、それは獣道のようなものだと思います。その思考の道を使えば使うほど、草木が踏み倒され、道が広がり通りやすくなる。似たような事が起こるとすぐにまたその道を通りたくなる。そして更に道は広がり続ける。悪循環ですね。「思考を変える、通る道を変える」。言うのは簡単ですが、実際はとても困難な作業です。「試しにあちらへ進んでごらん」と言われても草木に覆われて、暗くて怖くて、とても進めるようには思えません。「そんな考え方無理だ、綺麗事だ」と思うかもしれません。でも服薬の力で少しずつ新たな道を開拓するエネルギーをもらい、時に戻りたくなったら、運動や瞑想、マインドフルネスで心を無にしてリセットする。これを繰り返す事で、今度は今まで利用していた道に草木が生え、新たな思考の道が開拓されていくように思います。時に治療は長い時間を要しますが、一緒に頑張りましょう。