アルツハイマー型認知症の早期から見られる症状として「視空間認知(目から入った情報のうち、ものの位置や向きを認識する能力)」や「ボディイメージ」の障害といったものがあります。
それと関連して忙しい外来診療の中で無理なく、そして患者さんの負担も少なく実施できる検査として【キツネ・ハト 模倣テスト】といったものがあります。
一見簡単そうに見えるこの模倣テストですが、軽度認知症では8割、MCI(軽度認知機能障害)でも5割の方が間違えてしまうと言われています。
アルツハイマー型認知症による頭頂葉機能の障害をわずか数分のテストで反映できてしまうのです。
さて、じんぼこころのクリニックでも毎日たくさんの方から「物忘れ」「認知症」のご相談をお受けしています。
もちろん的確な検査と診断、治療が大切であることは言うまでもありませんが、多くの方から共通してお受けする質問が
「じゃぁ予防するにはどうすればいいか?」といったことです。これには学会で発表される認知症の研究だけでなくテレビやネットなど様々な情報があります。お魚がいいとか、
良く笑うことが大切だとか、コーヒーは一日何杯がいいとか。。
もちろん色々なことが有益だと思いますし、私も日々心がけるようにはしています。
そしてもう一つ、私がここで強調したいのが「情報のアウトプット」の大切さ、です。
私たちは便利な情報化社会の中でいつでもどこでも大量の情報を瞬時に手に入れることができます。
しかし、その「インプット」した情報を「アウトプット」することはどのくらいあるでしょうか。
例えば読んだ本の感想をノートにまとめてみたり、一日の出来事を日記に記してみたり。。。
多くの方が私同様、ぼーっとテレビを眺めたり、スマホのヤフーニュース等で苦労することなく流れてくる情報にただ浸かっているだけではないでしょうか。
アウトプットする時、脳は受けた刺激に対して知識や記憶を総動員して、取るべき対処法について熟慮、判断、決断し、それをどのように表現するかを検討します。
放っておいてもできるインプットに対してアウトプットは自発性がなければ行われません。一見簡単に思える自発的な文章や記憶のまとめといった作業が、実は脳にはものすごい刺激となり脳細胞
の活性化となっているのです。
「でも、今までも日記も読書も続いたことがなーい!」
そんな皆様にぜひお勧めしたい脳活性化法が簡単な手話の習得です。
先にお話しましたように認知症の方は早期から「視空間認知」「ボディイメージ」といったものが障害されてきます。
まずは相手の手話を理解するためには視空間認知能力が不可欠です。そして、習得していく過程で自身がイメージしている手話と自身の手先の表現が一致していなければ会話になりません。
相手の手話を見る⇒左右前後逆にして視点を入れ替えそれを真似る⇒自分の手話が第3者的視点からどのように見えているかをイメージする。
考えただけでもかなり頭を使うと思いませんか?
そもそも手先を動かすことは頭にとって有効であることは昔から言われています。
ペンフィールドの地図というものをご存じでしょうか。
脳のかなりの部分が手や指に関係していることがわかります。
脳の活性化につながるであろうことに異論はないと思います。
じんぼこころのクリニックの認知症外来では、適切な診断、治療だけでなく、「脳トレ」のための簡単な手話の宿題をお出ししています。
次の診察時に手話で「こんにちわ」や「お願いします」と挨拶してくださる方もいらっしゃいます。
病院は少し苦手だなぁといった方にも手話を通じて楽しんで参加していただけることで、本来の治療にも良い影響が出るのではないかと考えています。
一緒に楽しみながら手話を練習してみませんか?
じんぼこころのクリニック 院長 神保 慎